疾風!四畳半戦争

 
 
 
「もういい加減にしてください!!」
抱え込んでいた鬱憤を爆発させたマグナムエースは叫んだ。
「なんのことだ」
「とぼけようったって今日はそうはいきませんよ!アロー兄さん!」
鉄製グラス三つとオイルを乗せて運んできた盆をそのままコタツの上にダンッと置いてもまったく溜飲の下がらなかったマグナムエースは勢いそのままに眼前のファイターアローへ右指を突き付けた。
「フロンティア、アローを指で差すな。貴様の兄だろう」
そう窘(たしな)めたのはアローの向かいに座っている長兄、ファイタースピリッツだ。三十日お試しで購読している新聞──リーガーニュースのスポーツ面に目を通しながら湯呑みに淹れたほうじ茶味オイルを呑んでいた。
渦中の本人、アローはコタツの上で無造作に開封したするめの形状をした固形オイルを食べていた。口からするめをプラプラさせながら素知らぬ顔でマグナムが毎月なけなしの小遣いを貯めてやっとの思いで買い続けている──ゲッカンリーガーを読んでいる。
「せめて俺にことわってから開封してください!」
今月は心待ちにしていた野球の特集だったのだ。アイアンリーガー球界に名を残す名ピッチャー二〇人の投球フォーム徹底解説!という五〇ページボリュームの袋とじまでご丁寧に破ってくれるアローにマグナムエースは泣きたくなった。しかも開け方が手破りで壮絶に汚い。二重苦である。
「兄さんの本職はホッケーでしょう!?何で俺が楽しみにしてるの分かってて袋とじまで破くんですか!ピッチャーなんてアロー兄さんはやらないポジションじゃないですか!」
「ほぅ…そんなことを言って良いのか?聞き捨てならんな。金輪際貴様の球を受けてやらんぞ?」
「所属が違うんですからアロー兄さんが試合で俺のキャッチャーを務めてくれることなんて無いでしょう!?」
「なるほどそうか。──オールスターゲームが楽しみだな。確かあれは中央の所属ならばチームの垣根を超えてをバッテリーを組むこともあったか?」
「ああ、有り得るな」
「うっ…」
長兄からの援護射撃に末弟は怯んだ。
「性質が分からねば球は受けられない。お前が新技を開発しても大丈夫なようにと思ってのことだったが…貴様には俺の兄としての気持ちが伝わらなかったようだ。残念だ」
「ううっ…」
実の兄が微塵もそんなことを思っていないことくらいマグナムエースにも分かっていた。ただ単に、兄はコタツのテーブルの上にゲッカンリーガーを見つけたから勝手に書店の袋から出してビニル封を破り袋綴じを破り勝手に読んでいるだけだ。痛いくらい分かっていた。現実とは常に非情なのだ。だが、回路を渦巻いている負の感情の百分の一くらいの割合で、俺のことを少し気にしてくれてるのかな…とミジンコほどの可能性を膨らませて期待してしまったりするのでもう目も当てられない。そしてそんな夢見がちなマグナムエースの性質を兄二人は熟知していた。始末の悪い三兄弟である。
「……アロー兄さん…すみませんでした。ぜひゲッカンリーガーの今月号を…読んでください…」
しかしどんなに未来に期待しようとも月に一度の楽しみを破かれたことに変わりはないのでマグナムエースは苦悶の表情を滲ませながら喉から絞り出すような声で進言した。
「初めからそう言えば良いのだ」
「ううう…」
マグナムエースは心の中で泣いた。
兄弟間のヒエラルキーがそのまま縮図となって今日もこの手狭な四畳半に展開していた。
 
 

 
 
そもそも四畳半に住むことになった原因はマグナムエース側にあった。正確にはシルバーキャッスル側である。
「リーガー用アパートの体験レポートぉ!?」
「そう!シルバーキャッスルのみんなが普段どんな生活をしてるのか知りたいっていう声が多いらしくって!そこに注目したリーガー用アパート賃貸雑誌の人が話をくれたの!」
いつもどおり潑溂としたオーナーが移動日の今日両手に抱えてきた企画書の束はいつもコンスタントに引き受けるCMとは違い、一風変わったものだった。
「それで俺たちは何をするんですか?」
「それがね!簡単なのよ!ひと月アパートに住んで毎日日記を書けばいいんだって!しかも電気代もオイル代も何から何まで費用は全部雑誌持ち!住んでさえいえれば何をしても自由なの!これはやるっきゃないわよ!」
「でもぉ…ひと月って結構な期間ですよ?」
シルバーキャッスルの以外での生活というものをほとんど体験したことがないシルキーが気後れする。
「心配ないわよ〜!場所もここからそんなに離れてないし!一時間くらいなんだから!それにもう引き受けちゃった!」
「ええ〜っ!?」
目を剥いたピンクと青むらさきの丸い頭がぎゅうぎゅうと混み合い一斉に悲鳴をあげた。その後ろで工場長の手伝いをしていた赤い頭に向かってルリーはにっこり顔で客席から応援する時のように大きく手を振った。
「っていう事だから!マグナムエース!あと宜しくね!」
「おっ俺がですか!?」
シルキー達と話していたものだからまったく油断していたマグナムエースの手から支えていた天板がずり落ちそうになる。
「もうっ!あなたがやらなきゃ誰がやるのよ!同居はダーク側もOKって言ってたから楽しみにしててね!マグナム!」
看過できない一言がどさくさに紛れこんでいたような不安を覚えて直ぐさまマグナムはメモリの中でオーナーの呼びかけを繰り返し再生した。
漠然とした不安は不吉な予感に変わった。
「ダークって……同居って…まさか……オーナーっ!まさかそれ──」
ルリーはそれに応えるようにツナギの軍手姿のまま勇ましくサムズアップした。
「がんばってねっ!」
予感は確信に変わり、それはものの見事に的中した。というわけである。

 

〜つづく〜

 

S3(エス・スリー)の情報ページへ戻る