眩しすぎる未来(さき)

 
 
 
外気に触れている辺り一帯に薄い霜が張るような冷てつく夜だった。
昏い視界に冷たい草の匂いがする。
そこへ覚えのある温かい匂いがわずかに混ざっているのを感じとり、ゴールドアームはアイセンサーの感度を人間の視力レベルに引き上げた。季節を象徴する弓形の星座が見える。
「ここは何も変わらないな」
聞き慣れた声が後ろから掛かった。今何よりも求めていた声だが、同時に一番聞きたくない声でもあった。
「ああ」
相槌を打つと背後にあった気配が真横に腰を下ろす。シンプルな色の情報以上に装甲を包む深い赤がアイセンサーを刺激する。やりすごそうと何も無い空を見上げ、頭の中を巡る情報がノイズまみれになっているのを外に出すまいとやっきになった。
「お前は本当に星が好きだな」
「ほっとけ」
「悪いことだとは言っていない。お前が気に入るだけあっていいところだ。流れ星がよく見える」
それきり会話が途切れた。
バイザーを下ろしたままで良かった。ゴールドアームは気取られず彼の横姿を窺い見た。赤い装甲のアイアンリーガーは両手を突っ張り棒のようにして体を支えると黙って夜空を眺めている。まったく動く気のない様子に、勝手にこの場へ侵入してきた相手がそれ以上話題を持ちかける気は無いのだと直感した。
「テメェが星に願いなんざ掛けるタマかよ、マグナムエース」
吐き捨てた言葉に苛立ちが滲み出ているのに気付き顔をしかめる。
そして、間違いなく察したであろう筈なのに気付いた様子をあえて見せないマグナムエースの心情を推し量ることは今のゴールドアームには出来なかった。
「…そうでもないさ」
「あ?」
ややあって、返事があった。
「いつだったか…『星が流れる前に三度願いを掛けると願いが叶う』と、お前が教えてくれたな」
だがそれは独り言のようであり、呼びかけているのにゴールドアームの返事を欲しているとは判断し難い空虚を帯びている。マグナムエースは続けた。
「戦地で沢山の流れる星を見ていた。あらゆる物を呑みこむ終わりのない空間を唯一切り裂く事のできる、真っ直ぐに伸びる美しい光芒だ。あれが願いを叶えるものならば散っていったソルジャー達も浮かばれる日が来るのだろう…あれほど近くに居たのだから、彼らの願いこそ叶わなくては……」
まるで星に直接訴えかけるような声だ。
強い性質を持ちはじめた声にあとから気付き、かぶりを振って短く詫びた。
「すまない。フットとマスクがお前を探していたから、俺はそれを伝えに来たのだ」
その瞬間、ゴールドアームは体のオイルがぐつりと沸きたった。
腰を上げようとする赤い機体の肩を強引に突き倒す。マグナムエースは何をされたのか分からないようだった。
「テメェ…保身のダシに俺の弟達を使うんじゃねえ」
「…なんのことだ」
「しらばっくれんなッ!」
正面から見据えて追い詰めてくるゴールドアームの視線にマグナムエースは気圧された。
「俺を探せとフットとマスクがお前に言ったか?違ぇだろ?テメェはテメェ自身を正当化させたいだけだ。ここに来る理由をな!」
「…………」
言い返さないマグナムエースに、やっぱりな、という実感が僅かに涌くが、はるかに上回る怒りがゴールドアームを席巻していた。だが、ゴールドアームが二の句を告げる前に言葉を挟んだのはマグナムエースの方だった。
「──アーム。…ならばお前に聞きたい」
「あ?」

 
「なぜ、俺なのだ?」

 
少なくとも目の前の機体からは聞いたことの無いアイアンリーガーの声だった。自分に自信の無い者が出すような声色に、ゴールドアームは今にも暴れ出しそうだった体の熱がみるみる冷めていくのが分かった。
「…一から十まで俺に説明させる気か?」
嫌そうに言ってみせるが、それさえも気づけずマグナムエースは視線を逸らした。
「…俺を手中にしてそこに何の得があるというのだ?なぜ、こんな無駄な事を始めようとするのだ」
「そいつはテメェ自身に聞いてみな」
「………」
「俺にはその答えが分かっている。だがこいつは俺の答えだ。お前の答えじゃねぇ。だから教えられねぇ。それだけだ」
「…無理だ。無理なのだ。」
「お前がどう思おうが俺は諦めねぇ」
「無駄なことは止せ」
「“俺に信念を曲げさせることなど誰にも出来ない”──テメェはそう思ってんだろ?くっだらねぇぜマグナム!」
矢継ぎ早の煽りに堪えきれなくなり、マグナムエースは我慢ならず顔を上げた。
「!!」
ゴールドアームの意思がアイセンサーを通して流れ込んできた瞬間、しまったと思った。
それはアイアンリーガー同士の共鳴だった。
感情的に従えるように、人間らしく見せられるように、ロールアウトの時からリーガー全てにインプットされている強いアイアンリーガーに惹かれるという感応プログラムに、今は自分が全部持って行かれそうになる。
抗えない強さの前に己が引き摺り出される。

 

〜つづく〜

 

まぐころっ!の情報ページへ戻る